362「CAN’T TAKE MY EYES OFF YOU〜SIDE B」



吉澤ひとみWikipedia



例えば、上手くなかった歌やダンスの技術が向上したとか、
控え目でどうしようもなかった性格が一変したとか。
そういう「劇的な変化」とは無縁の位置にいたのが、吉澤ひとみというメンバーではなかったかとボクは感じる。
いや、見る人から見れば、彼女にだって、そういった変化の確かな軌跡というものが存在しているのかも知れないが、
ボクが見てきた吉澤ひとみは、加入した時から、歌にもダンスにもこれといった欠点は見当たらず、
その飄々とした性格が、極端に変わったと感じられる事もなかった。
逆に言えばそれは、モーニング娘。のメンバーにありがちな、
マイナスがプラスに変わる感動的な「成長」みたいなものが、明確に見られなかったという事でもあって、
つまり、良い意味でも、そして良くない意味においても、吉澤ひとみは、ずっと吉澤ひとみのままだったような気がするのである。
ただ、適性にほとんどブレがなかった彼女だったからこそ、ここまでの長い時間、
「個」ではなく「輪」の中で芸能生活をやってこれたのだと思うし、
しっかりとしたスポーツ精神を持つ彼女の、それこそが最大の長所であったと考えれば、
彼女が変わらなかった事は、モーニング娘。を愛するボクたちにとっては喜ばしい事だったのかも知れない。
だが、リーダーとなり、メンバーを引っ張っていく立場になってから、彼女は少しだけ変わった。
リーダーとしてしっかりするようになった、という部分はもちろんだが、
以前に比べ、感情を表面に出す機会が増えたように、ボクは思えるのだ。


昨年の夏、紺野あさ美小川麻琴がグループを卒業した時の事が、ボクは今でも強く印象に残っている。


気を抜けば、涙がこぼれそうになるのを必死にこらえながら、いつものリーダーであろうと振舞う姿。
そのいじらしさは、かつての吉澤ひとみからは想像もできなかった情緒であり、
失礼ながら、少々意外に感じたのと同時に、彼女に起こった変化を実感する事ができ、実に感慨深いものがあった。
そしてそれは多分、様々な集団を束ねてきた経験の中で得た、彼女の精神的な成長だったのだろう。


様々な個性を一つにまとめ上げていくという作業を通して、彼女は、相手の思いを汲むためには、
表面上だけではなく、自らも感情をあらわにして向き合わなければ、何の意味もないという事を悟ったのかも知れない。
そして、相手の気持ちを深く知る事で、自分も高められていくのだと知った時、
全てのものが、彼女の中で愛おしい存在になったのではないかと、ボクは勝手にそう思っている。


卒業を迎える今、一体、彼女は何を思うのだろう。
そして、餞のステージで、彼女は何を語るのだろうか。


涙が似合わない吉澤ひとみだとは言え、感情を素直に表せるようになった今、
切ない表情の彼女が見たいという本音も、実は少なからずあって、
そのステージが、今から待ち遠しくて仕方がないのである。

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