341「『25〜ヴァンサンク〜』〜安倍なつみ ミニアルバム」



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実のところ、このアルバムをどう受け止めて良いものか、
今もって少しばかり困惑している。


特にソロのメンバーの活動の中において進んで久しい、いわゆる「つんく離れ」。
プロデューサー・つんくの世界観も含めてのハロプロファンだという、
ボクのような人間にしてみれば、血の入れ替えを行う事で多少の新鮮さは感じられても、
そういった傾向が大きくなる事に、当然ながらあまりいい印象は持てないし、
ましてや安倍なつみといえば、モーニング娘。の顔であるとつんく自身が公言し、
グループ時代は常に「主人公」としての役割を担ってきた、
言ってみれば「ハロプロの象徴」のような存在だったはずなのだ。
確かに時代は移ろい、ハロプロのさまざまな風景は変化したかもしれない。
だが、なっちには、今までと変わらない存在意義があり、彼女が変わっていく事はすなわち、
ハロプロハロプロで無くなってしまう事と同義なのではないかとボクは思う。
他人の曲を唄ったからと言って、なっちが何も変わらない事なんて、ボクだって解ってはいる。
ただ、つんくの下から遠く飛び立たんとしている彼女が、なぜだかとても遠い存在になったような気がして、
正直、アルバムを手にしても、メートルは上がりきらなかった。


結果から言えば、聴いた後に残ったのものは「物足りなさ」だった。


決して悪いデキの作品ではない。
むしろ、歌手・安倍なつみの表現の豊かさと、
一介のアイドルと呼ぶには、あまりに高い歌唱クオリティを存分に味わえたという意味においては、
ミニアルバムとは言え、非常に優れた作品であると、掛け値なしにそう思う。
特に、タイトルチューンでもある『25〜ヴァンサンク』で聴かせる、
メローな中にも一本芯の通った彼女独特の歌声は、思わずため息が出てしまうほどの存在感で、
その他の楽曲にしても、つんく色の薄まったそのスマートな音楽性は全体的に耳触りが非常に良く、
聴いているうち、段々とその楽曲世界に引き込まれていくかのような心持ちには、確かになった。
だが、一連のつんく楽曲に存在した、独特の「泥臭さ」「場末感」といったものには、当然の事ながら乏しく、
ボクとしては、そのあたりで、何とはなしの物足りなさを感じてしまうのである。


アーティスト・安倍なつみの「明るい未来」を本当に願うなら、
あるいは、こんな事を思ってしまってはいけないのかも知れない。
だが、ボクは彼女に、これから先もまだ「なっち」でいて欲しいし、
ハロプロにとっても、彼女はまだまだ必要不可欠な存在だと思っている。
脱・つんくの果てに、アーティストという肩書きとなった彼女が、どこか遠くへ行ってしまう。
ボクにとってはそんな「切ない未来」を思い起こさせるが故、
作品の良し悪しではなく、心情的な部分で、手放しに絶賛できないのが、なんとも寂しい作品である。

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