312「Farewell2006 May.→Aug.」




こんな言い方は良くないのだろうが、
ゴールデンウィークから夏の終わりまでの数ヶ月間は、代々木の夏ハローとミュージカル『リボンの騎士』、
それぞれの千秋楽公演を迎えるまでの、まるで「助走期間」のようだった。
もちろん、GAMの結成や久住小春のソロ・デヴュー、
さらに℃-uteのメジャー展開など、ハローにとって重要なトピックもあったが、
どんな出来事と向き合っても、脳裏には常に「紺野あさ美」「小川麻琴」というキーワードが引っかかっていて、
なんとなく落ち着かないというか、気もそぞろの日々だった。
別に二人の推しを公言している訳でもないボクが、そんなにソワソワする事もないのだが、
たぶんそれは、近しい友人に、紺野ファンと小川ファンがいたせいだろう。
7月23日、そして8月27日が近づくに連れ、思いが高まっていく友人たちの姿を目の当たりにして、
なぜか直接的には関係がないはずのボクまで、思わず気持ちが高ぶってしまった。


とは言え、2001年春ツアーの『好きな先輩』から連綿と続く、
4人の熱い絆をこの目で見守ってきた者として、ボクにだって5期メンバーには特別な思い入れがあるし、
二人の卒業に寄せる思いには、自分で言うのも何だが、人よりも深いものはあったのだ。


最近のモーニング娘。のメンバーの卒業というものは、卒業していく者の、
その後の芸能生活の中の、ひとつの通過点という趣きでしかなかった。
ケジメという意味においては、それが必ずしも悪い事だとは言わないが、
明確に進路が決まり、在籍中に準備も着々と整え、後はどれだけ良い思い出を作り、感動的な卒業セレモニーを迎えるか。
予定調和と言えば聞こえは悪いが、ソロ活動を開始する際に通過する「お決まりの儀式」のような感じで、
メンバー同士の感情はともかく、ファンの側にしてみれば、
卒業式で流した涙も乾かぬうちに、テレビや舞台であっさりと競演…というパターンが続いていただけに、
こと、円満卒業に関しては、深い悲しみや危機感を抱くという事はほとんどなかった。

「どうせまたすぐに会える」

それが当たり前の事だと、ボクたちが感じるようになっていた矢先、
こんこんは、理想を現実のものとする為に、ハローはおろか芸能界からも身を引き、
マコトも、自らのスキルをさらに高めるべく、期限を切らずに芸能界を離れた。
これまでみたく、翌週ハロモニ。を付ければまた会える訳でもなく、また、将来ボクらの前に絶対現れるという確かな証もない。
本当に彼女たちは、別のフィールドへと旅立って行ってしまったのである。
1999年の初めに福田明日香が旅立って以来、7年ぶりに迎えた「お別れ」のシチュエーションに、
ファンの誰しも、少なからずの動揺があったのではないだろうか。
というか、何の感情も感慨も抱かないなど、モーニング娘。を現在愛している者、
そして過去少しでも愛していた者ならば、まずあり得ない話。
いや。「本当に」モーニング娘。に愛情を注いだ者だけが感じ得た、それは寂寞であったに違いない。


幸いにもボクは、両方ともの卒業式に立ち会う事ができ、
切ないけれど、爽やかで清々しい感動に満ちたセレモニーに涙させてもらった。
前を向いて歩いていこうとする彼女たちへ、声の限りに送るエール。
そして、それに応える彼女たちが見せてくれた、この夏最高の笑顔。
どんな話題よりも出来事よりも、それがボクにとって一番のニュースだった。


そして、季節は夏から秋へ。
二人の笑顔を胸に抱き、再び歩き出したボクたちの前に、またもや立ちはだかった衝撃は、
愛すべきハローのメンバーと、笑顔で過ごす安穏なファン生活を容赦なく奪っていった。

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