307「『リボンの騎士』とは一体なんだったのか〜第3場」



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高橋愛には舞台女優としての類まれな「才能」と「適性」がある。
今回のミュージカルでボクが得た、ひとつの確信はそこであった。


彼女が小さな頃から宝塚の舞台に憧れ、親しんできた素地というものを、
以前からボクたちは知っていたし、ファンだからこそ理解できる機微やテクニックをフルに活かして、
いつか本格的な歌謡演劇の舞台に登場する瞬間が訪れた時、
きっと高橋ならいいものを作るのだろうな…というおぼろげなイメージは、誰しも持っていたに違いない。
だが、日々のモーニング娘。の活動内では、なかなかそういうタイミングもなく、
宝塚とは全く関係のない歌や演技の仕事で見せる、彼女の舞台女優としての片鱗だけが、
僕たちの中にある【高橋=歌劇の才能】という方程式の拠り所だった。
そういう意味で言うと、いろいろ見所の多かった「リボンの騎士 ザ・ミュージカル」の中で、
最も注目すべきだったのが、あるいは高橋愛の非凡な舞台捌きではなかったかと、今になってそう思うのである。


二つの心を持つ主人公・サファイア
原作以上に、サファイアジェンダーアイデンティティを取り巻くエピソードが、
大きくクローズアップされている今回の木村脚本。
サファイアという同じ身体の中に同居する2つの性を違和感なく、
しかも感情移入して演ずる事は、通常の1人2役とはまた違った難しさがあると思う。
これは結果論だが、この役は、やはり高橋以外には務まらなかったのではないだろうか。
高橋が宝塚好きな事だとか、他のメンバーのスキル面の話というのも当然あるが、
なんというか、サファイアは、まるで高橋の為に作られたような役どころというか、
「男役とは」「娘役とは」という宝塚独特の世界観を、
好きでずっと見てきた高橋だからこそできた、演技の絶妙なるさじ加減があり、
そして、それが発揮されたからこそ確信できた、女優・高橋愛のポテンシャルの高さだった。


今回のミュージカルの最大のトピック。それは言わずもがな。宝塚歌劇との本格的コラボレーションである。
脚本、演出、客演、そして細部にわたるスタッフの多くまで、
実際の宝塚関係者という、これぞまさにコラボレーションと言える布陣。
厳密に言えば3年前に、テレビの企画で宝塚とのコラボレーションは一度実現している訳だが、
その時とはまるで比べ物にならない、濃い密度の接触であった。
そして、言わば「宝塚流」の鍛えられ方で、歌劇の基礎から実践までを経験できた事は、
メンバーそれぞれ大きな財産となることは間違いない。
とりわけ高橋にとってこのミュージカルは、まさに夢の実現であったと同時に、
彼女の「生きる道」をくっきり照らし出した一筋の光明でもあった。
もちろん、彼女の中に、モーニングやハロプロの活動を軽んじる思いなどはなかろうが、
今の暮らしの中にある幸せなど軽く凌駕する、言葉には到底表せないほどの
充実感と達成感が、彼女の小さな身体を貫いたのは間違いないだろうし、
それが、彼女が自らの行く末を考える上で、大きな影響力を持った事だろう。


「好きこそ物の上手なれ」


その言葉の中に、高橋愛の「真髄」がはっきりと見えてくるのである。

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