267「ふたつの魂。ふたつの心。/うらがわ」



リボンの騎士 ザ・ミュージカル 公式サイト



何を求めて今回のミュージカルを観に行ったのか。
ボクの中の「もうひとつの魂」が、執拗に問いかけるのはそこのところ。
そして、内省的に改めていろいろと考え直してみる時、
やっぱりボクは「モーニング娘。の舞台」を見に行ったのだとしか言えないのである。


当り前の話だが、同じ『リボンの騎士』であっても、
他のキャストでの作品なら、わざわざ出かける事もなかったであろう。
そこにモーニング娘。がいたから、ボクは新宿コマに行った。
いろいろ綺麗事を並べても、その部分を否定することはできないし、
そういう思いで足を運んだのは、なにもボクだけではあるまい。
おそらく観た者の大半は、今現在の心境はともかく、
取っ掛かりの部分においては、モーニング娘。もしくは、
贔屓のメンバーを見る事が主目的だったのではないかと思う。
このシンプルな事実に行き当たったとき、
実際に舞台を目の当たりにして、ボクも含めた多くの観客の中に湧き上がった感動は、
あくまでも、全てを包括した、作品の出来上がりに対してのものであり、
ファンとして、モーニング娘。を見る為に出かけたのだという、当初の目的を鑑み、
モーニング娘。の舞台」として今回の作品を捉えた時、
作品の出来映え同様、手放しでそれを絶賛できるのかと言われれば、
正直なところ、ボクの中でそれは、極めて難しいと言わざるを得ない。


「もし来年のミュージカルが、以前のようなクオリティに逆行するなら、
 足を運ぶことはないかも知れない」


1幕終了後の休憩時間に、ばったり会った知人が、そんな事を話していた。
至極真っ当な意見で、ボク自身もそういう風に感じた訳だが、
はっきり言って、観る者にこういう印象を抱かせた時点で、
モーニング娘。の舞台」としては、あるいは失敗なのではないか。
いささか乱暴だが、そんな風に感じてしまうのである。


有り体に言えば、今作に勝る作品を作り上げることは、ほぼ不可能に近いとボクは考える。
それは、例え同じスタッフで、同じシチュエーションで、
そして同じモーニング娘。が演じたとしてもである。
もっと言えば、来年、『リボンの騎士』を再演したとしても、
きっと、今年味わったほどの感動は得られないはずである。
それだけ今作は、独特の雰囲気を持っていたという事だが、
そんな作品を作り上げてしまったおかげで、
未来永劫、麻薬的な魅力を持ったこの作品の幻影を、
ボクたちは引きずって生きていかなければならなくなってしまった。
観客の目が肥え「これ以上の作品を」とその欲求は深くなる。
まだ見ぬ次回作。そして、その次の作品。事あるごとに今作は比較の対象となり、
その度にきっと、「やっぱりリボンの騎士には勝てんな」と嘆息し続けることになるだろう。
そういう、ある意味不健全な印象を、ファンに与えてしまうかも知れないという状況は、
やはり、少しいただけないと思うのである。


無論、素晴らしい作品を作り上げた、キャストとスタッフ諸氏に対して、
なんら文句をつけるつもりはない。
ただ、敷居は低いままでも全然構わなかったのだ。
モーニングが出てさえいれば、クオリティなんぞ別にどうだっていいのだ…
みたいな乱暴なことを言うつもりはない。
やはり、大きな風呂敷を広げてお客さんを呼ぶわけだから、
それなりに見られる物を作ってもらいたいという思いは常に持っている。
だが、思わずおぉっと唸らされてしまう程に、本格的なミュージカルを、
モーニング娘。の舞台に求めてはいない。
今回のように、後々後遺症が残ってしまうほどに強烈な作品でなくとも、
ある程度のところの精神状態で楽しめるもので十分なのである。
ボクたちは、モーニング娘。が出ていれば、どのような類の作品であっても、
それなりに楽しむ術を心得ているのだから。


作品としての素晴らしさを感じる一方で、
モーニング娘。の舞台という部分においては、
モヤモヤ感を拭い去ることはできず。
もちろん、手放しで「最高でした」と言い切りたい気持ちはあれど、
ボクの中の「ふたつの魂」の葛藤が、それを許さない。


リボンの騎士 ザ・ミュージカル』とは、なんと罪な作品であろうか。