263「You are my sunshine〜2」



小川麻琴Wikipedia



「調子に乗っていた」


夏まゆみは、著書『変身革命』の中で、小川麻琴の事をそんな風に述懐する。
『Mr.Moonlight〜』で、一段上の高みへと跳ねようとしていた、まさにそんな時の事である。


全ての歯車が、怖いくらい綺麗にかみ合っている時、人は誰しも浮き足立つ。
でもそれは、真っ当な人間であれば、ある意味仕方のない心の機微であり、
もし仮に、小川麻琴があの頃、過信と増長にまみれていたのだとしても、
(無論、決してそのような事はない訳だが)
それは、彼女が非常に人間らしい人間であることの証明であり、
誰にもそれを責める事など、本来はできないものだとボクなんかは思う。
だが、作り手たちは、ボクのようには甘くない。
目の前まで近づいていた、我が時代を掴もうと必死になるあまり、
周囲を冷静に見られなくなっていたのか。
あるいは、己の力を過信するあまり、持ち続けた「ひたむきさ」が少し揺らいだのか。
「調子に乗ってる」と、夏まゆみに、大きな雷を落とされた格好の小川麻琴は、
このあたりを境目として、揺ぎ無いはずだった「エースの資質」に、
少しばかりの翳りを見せ始めるのだった。
モームスバブル」が崩壊し、モーニング娘。の次なる一手を、
作り手たちがあれこれ模索し始めた迷走の時代。
小川麻琴もまた、自らの取るべき進路を見失っていた。


自らの存在が埋もれてしまわぬように、集団の中で個性を突出させる事こそが、
人数が極端に増えたモーニング娘。のメンバーとしての処世術だった時代。
オリジナルメンバーから4期まで。ズラリと揃った個性派を前に、
それでもなんとか、自分の場所を確保しようと、5期メンバーはもがき続けた。
高橋が福井弁の田舎者キャラで押し、そして、紺野あさ美が、
飯田圭織以降不在だった「天然癒し系キャラ」の座を獲得。
苦しみながらも、同期が着々とポジションを獲得していくのを横目に、
浮上のきっかけを模索し続ける小川麻琴だったが
一度その手からこぼれ落ちた、エースへの片道切符を
再び手にする事は、決して容易な事ではなかった。
時間ばかりがいたずらに過ぎ行き、気が付けば、かつての「エース候補」は、
脇役に回ることの方が多いポジションにまで追いやられてしまっていた。
その頃、彼女が本当はどんな風に考えていたかは解らない。
だが、「このままではいけない」という事は思っていたに違いない。
なんとかもう一度、自分が輝ける場所へ…の強い思い。
そして苦心の末、彼女はついに、自分の最も輝けるポジションを見つける事になる。


現リーダー・吉澤ひとみとの「名コンビ」結成。
それが、小川麻琴という存在をを変えた、大きなきっかけとなったのである。