260「善と悪。」



ボンテージ梨華「うぜえんだよ」(デイリースポーツ)



ヒーローとヒール。どんな時代の、どんなジャンルにおいても、
この二つの存在が、しっかりと対立し合うからこそ、物語は物語として成り立つ。


解りやすいのは、いつの時代であっても、お年寄りの心を掴んで離さない時代劇の世界。
越後の縮緬問屋と身を偽り、諸国を漫遊する先の副将軍様のお話しかり。
背中に桜吹雪の刺青を持ったお奉行様の武勇伝しかり。
毎回、図ったように必ずどうしようもない極悪人が登場し、
下々の民を泣かせ、時にはその命まで奪い、悪事の限りを尽くす。
そして、そんな一癖も二癖もある悪人を、
これまた毎回必ず、将軍様やお奉行様が完膚なきまでに叩きのめし、
町はまた、いつもの平和な暮らしを取り戻し、めでたしめでたしとなる。
ほぼ例外がないと言っていいくらいに、時代劇の世界はこの流れの延々たる繰り返し。
にも関わらず、時代劇があれほどまでに支持される理由。
それは、「勧善懲悪」の基本線が崩れないから、という事に他ならない。
どんなに入り組んだストーリーであったとしても、
善の対向には必ず悪があり、そして、善は必ず悪を挫く。
ものすごく解り易い世界がそこには展開されていて、
そのシンプルさと、悪を倒すという痛快さが、時代劇をあれだけ支持させているのだとも言える。
そして、そんな善悪の対比が鮮明であればあるほど、人々はより深く物語にはまり込む。
だから、ヒーローはどこまでもヒーローらしい立ち振る舞いであり、
ヒールは、思わず鼻をつまみたくなるほどに、激しく憎たらしい存在なのである。


スケバン刑事麻宮サキという完全無欠のヒロイン。そこに立ちはだかるのは、
当然と言おうか何と言おうか、やはり、完全無欠のヒールでなければならない訳だが、
それを、よりによって、今回はなんとあの石川梨華が演ずるというのだから、
一報を聞いた時には、これはもう驚かずにはいられなかった。


彼女とて、これまでさまざまな役どころをこなしてきた、紛う事なき女優であるからして、
いつかは、悪役というものも演ずる時もあるのは、至極当り前の話ではある。
ただ、ハロプロ石川梨華という存在を考えてみるとき、
泣かされる事はあっても、他人を泣かせてほくそえむというようなキャラではなく、
おそらく、最も悪役の似合わないのが彼女だというような気がするのだ。
そんな石川梨華が、今回は、麻宮サキの宿敵として、
女王様よろしくのボンテージに身を包み、ヨーヨーを振り回しながら、
「テメエの全存在がうぜえんだよ」などと、悪態を突くのだそうである。
正直なところ、どんなタチの悪いヒールがスクリーンに登場してくるのか、
今の段階では、全く想像すらできないでいる。
というか、石川梨華が、そんな格好でそんな科白を吐くという姿を想像すると、
そのそばにヘンな扮装をした、吉澤ひとみ小川麻琴がいるイメージしか
どうしても浮かんでこないのである。


そんなギャップを、完成作品はどのような形で補正してくれるのか。
そして、なにより、石川梨華は完全無欠のヒールたりえるのか。
松浦亜弥麻宮サキっぷり、そして新作のストーリーと合わせ、
劇場公開に際しての「愉しみ」がさらに増え、今からその日が待ち遠しくて仕方がない。