250「赤点の星/中」



紺野あさ美Wikipedia



「あれはめちゃめちゃ不運だったねえ…」
などと、今でこそ、ちょっと笑いながら振り返る事もできる。
事実、お蔵入りとなった衝撃映像を目の当たりにした当の本人が、
周りがちょっと気まずい雰囲気になる中、
「このオンエア見たことなかったんですよね」
なんて、シレっと言ってのけてしまうくらいである。
いろいろあった過去も、もはや思い出と呼べるほど、長い時間が経った。
だが、その当時の紺野あさ美の「悲運」はと言えば、
当たり前だが、とても楽しく前向きに捉らえられるようなシロモノでもなく、
見ているこちらの方が、思わず目を覆いたくなるほどの悲惨さだった。
三者のボクたちですら、そんな風に感じたのだから、
本人が抱いた苦しみは、きっと筆舌に尽くし難いものだったに違いない。


加入したての一番大事な時期に、しかも本人の資質や言動とは
全く無関係と言っていい事故によって、活動の離脱を余儀なくされる状況。
まして「赤点」というレッテルからのスタートライン。
まずは、他者との差を埋める事からスタートせねばならない彼女にとって、
スタートダッシュでの躓きは、あまりに大きなハンデとなった。
しかも、あろう事か同期の4人と共に初舞台を踏めないなど、
(まぁ、はじめましての挨拶くらいは辛うじて全うできたけれど)
例えそれが、神の与え給うた試練なのだと、物分かりよく全てを飲み込んだとしても、
それはあまりに酷い現実であった。ましてや当事者は13歳の少女。
負った心の痛手の大きさは、想像すらできない。
張り詰めていた糸が切れ、例えば心が折れてしまっていたとしても、多分、誰も何も言わなかっただろう。


だが、紺野あさ美は、くじけなかった。


「がんばる姿を見てください」
オーディションの時のつんく♂との約束を健気なくらいに貫き通し、
あまりに大きい、ハンデもアドバンテージも厭わず、
彼女は自らのペースで、ただ、ひたすらにがんばり続けた。


さすがに少しやり過ぎた…と神が思ったかどうかは知らないが、
凹むところまで凹み、それでも尚、頑張りに頑張った彼女に少しばかりの追い風が吹き始める。
5期メンバーの中で、誰よりも早く迎えた「キャラ立ち」。
その、ポワワンとしながらも、どこかシュールなキャラクターが、
なんと、あのめちゃイケを生んだ鬼才・片岡飛鳥の目に留まった。
そして、伝説のバラエティ「13人がかりのクリスマス」で、
難解と言われる、片岡飛鳥演出の大河コントの主役を見事務め上げた彼女は、
それが自信となったのか、その後、一気の成長をみる事となった。
数々の経験。そして、軌道に乗って以降も忘れなかった、たゆまぬ努力。
紺野あさ美の、そんな華々しい成長絵巻については、
ボクなんかが語るより、おそらくみなさんの方が、よくご存知のはずである。


あの時。


神が、試練ではなく栄華を彼女に与えていたとしたら、
果たして彼女はここまでの成長をみただろうか。
どこまでいってもそれは空論かも知れない。
だが、ボクは信じたい。
あの挫折の日々があったからこそ、紺野あさ美の今があるのだと。


そして迎える、紺野あさ美集大成のステージ。
ボクの思いは、本当に空論なのかどうか。
それを確認するために、ボクは代々木へと向かう。