249「赤点の星/上」



紺野あさ美Wikipedia



ふっと息を吹き掛ければ、いとも簡単に消えてしまいそうなほど、
それはあまりにも、か弱い瞬きだった。


輝かんとすれば、誰よりも明るく光れるだけの資質は秘めていた。
今現在の、まばゆいばかりの輝きが、その事を如実に物語る。
だが、何もかもが弱々しかったあの頃の姿から、
今日の大成を誰が予測できたであろうか。
変化の要因は、時間の経過だけが全てではもちろんない。
自ら輝かんと、ひたむきに続けた、たゆまぬ努力。
そして、その努力がもたらした、とてつもなく大きな成長。
5年の年月を経て、ついに一等星の輝きを手にした、
モーニング娘。一番の努力の虫。それが「赤点の星」紺野あさ美である。


今、改めて『LOVEオーディション21』のビデオを見返してみると、
冒頭の一文が決して大袈裟でない事がよく解ると思う。
白いワンピース姿で、ちょっと伏し目がちに画面に現れた彼女は、
か細い声で、遠慮がちに自分の名前を告げると、
決して上手とは言えない唄を、それでも一生懸命に唄い始める。
消え入りそうな見た目と歌声。それは、今の彼女の姿からは考えられないほど地味な印象だ。
当時の事をはっきりと記憶している訳ではないが、
あの時点で、彼女がオーディションに合格するとは、
ボクはたぶん、考えてもいなかったはずである。
ところが、彼女はボクの浅はかな予想をあっさりと裏切り、見事合格した。
ただし、プロデューサー・つんく♂の寸評はと言えば、それはもう酷い物だった。
どれくらい酷かったか、今、改めてここに再録してみる事にする。


「一人ものすごい劣等生がいまして。僕ん中でなんですけど…
 ダンスはリズム感が弱くて、声の通りも悪くて、
 えー…歌の伸びも(苦笑)なくて、もうどうしようもない劣等生なんですけど、
 そういう劣等生こそ"ロック"だなって僕は思うんですよね。
 正直言って、今回のオーディションの中では、結果的には赤点取ったんですけど、
 僕はそいつの可能性と、最初に出会った時のインスピレーションを信じて、
 本人も言ってました「努力する事を見て欲しい」っていうのを、見ていきたいです」


頭の良い彼女の事である。オーディションや合宿を通して、
自らが他の候補者に比べ「足りない」存在であるという事を、
そして、自分に与えられた他者へのアドバンテージは、
「人よりもさらに努力する事」しかないのだと、
内心、忸怩たる思いを抱きながらも、ちゃんと理解していたのだろう。
もちろん、陸上と空手で培った努力の精神だけは、誰にも負けない!
という、彼女なりの自負もあったに違いない。
だから彼女は、合宿中もがんばった。たとえ、そこに歴然とした実力差があっても、
とにかくがんばれる事は、全てがんばった。
それだけが、オーディション中の彼女の、唯一無二とも言える存在意義だったのだ。
当然というか何というか、曲者プロデューサーの彗眼が、
彼女のそんな姿を、簡単に見逃すはずもなく、
オーディションで見せた、人一倍の努力へのご褒美として、
モーニング娘。への切符と、4人目の「赤点合格者」という、
あまりにも劇的すぎる演出をプレゼントしたのである。


2001年8月26日。
その日を以って、華やかなモーニング娘。生活をスタートさせた紺野あさ美
だが、見えざる手の持ち主は、その日以降、努力が売りの彼女に対して、
必要以上とも思える、更なる努力を強いる事になる。
そう。「赤点の星」紺野あさ美にとって、
その日は、長い長い艱難辛苦の日々の始まりでもあった。