231「時東ぁみ」



つんく♂タウン旗揚げ、時東ぁみ初座長(日刊スポーツ)



時東ぁみ松浦亜弥である。


突然こんな事を言い出して、別に頭がおかしくなってしまった訳ではない。
ボクの中では、姿形もキャラクターも全く違う二人が、
ぴたりと重なり合う姿が、はっきりと見えているのだ。
その理由を説明するキーワードは二つ。
ひとつは「ガス抜き役」。そしてもうひとつは「幅の広さ」である。


当たり前の話だが、ハロプロという集団はもはやマイナーな存在ではない。
知名度も集客力もあり、彼女たちが何かアクションを起こせば、世間でそれなりに話題にもなる。
今や、活動すればしただけ何らかの形の結果がついてくる彼女たち。
だが、その裏側にあるものは、そんな一定の成果を残すためにかかる、
人的または物的なコストであり、それは相当大きなものであるだろうという事は想像に難くない。
その事を考えれば、やはり一回一回が勝負であり、失敗などは当然だが許されない。
つんく♂を初めとしたスタッフたちは、いかにすればハロプロが売れるかという事に腐心し、
綿密なマーケティングやリサーチ、そして戦略会議を重ねた上で「売る為の方策」を決定。
それを土台にして、シングルやアルバムやライブを作っていく訳だが、
実際に楽曲を紡いでいく、つんく♂にとってみれば、
自らの音楽的嗜好をグッと抑えて、売る事を最優先に考えた、
言わば「よそ行き」の楽曲を手がけるというのは、
プロデューサーの仕事であると割り切った部分もあるにせよ、
一ミュージシャンとしては、相当ストレスになっているに違いない。


売れる売れないに捉われず、とにかく、自らの今やりたい事をやる。
音作りだけでなく、ビジュアルや、タレントとしての立ち位置に至るまで、
徹底的に、己のこだわりを追求したものを作りたい。
つんく♂のそんな欲求の具現化こそが時東ぁみという存在なのではないだろうか。
ハロプロでは、息が詰まるほど徹底的に商業音楽を追求し、
そして、時東ぁみで趣味の世界を存分に楽しみ、プロデューサー業のガス抜きをする。
そうする事で、コンポーザーとしてのつんく♂は、また研ぎ澄まされていくのである。
ガス抜きなどと書いてはいるが、もちろんその完成度は驚くほどに高く、馬鹿にはできない。
その完成度の高さを支えているのは、時東ぁみの持つ個性の幅の広さ。
いわゆる萌えキャラでよし。正統派アイドルの横顔も持ちつつ、
数多のグラドルの中に入ってもまったくヒケをとらない豊満なボディラインもある。
歌は及第点だし、MCにはキラリと光るセンスも感じる。
つんく♂の「これや!」に、即座に順応できる奥の深さは、
これから大成していく際には、とても心強い武器となるだろう。
つんく♂のガス抜き役として、その個性の幅の広さで急成長しつつある時東ぁみ
実は、今の彼女と似たような役割を果たしていたのが、
誰あろう、デビュー当初の松浦亜弥だったのである。


2001年。モーニング娘。と、その関連ユニットは、
中学生メンバーの加入で一気に低年齢化した事や、
前年からの急激なビッグビジネス化の影響で、まずタイアップありきとか、
国民的アイドルの名の下、メッセージ性の強い楽曲を求められたりした事などがあり、
それまでのような、自由なモノ作りをする事が極めて困難な状況だった。
メンバーの数も極端に増え、つんく♂本来の持ち味もなかなか出し切れない。
そんな時期、世に現れたのが松浦亜弥だった。
声。歌唱力。キャラクター。その幅の広さは、おおよそ新人とは思えないレベル。
そしてなにより、関西人特有の物怖じしない性格が、
つんく♂の心を突き動かしたかどうかは定かではないが、
とにかく、ありとあらゆるタイプの良曲を、つんく♂は惜しみなく彼女の為に書き、
そして彼女も、つんく♂の求める表現力を、形として実践して見せたのである。
その後の松浦亜弥の活躍はご存知の通り。
今や、松浦亜弥の名を知らぬ者が全くいなくなるほど、大きな存在となった。


時東ぁみ松浦亜弥のような前途を辿るかどうかは解らない。
けれど、ボクも含めて、時東ぁみを軽視していた者たちは
あるいは、少し彼女の見方を変えた方がいいのかも知れない。
でも、ハロプロだけで手一杯…もまた偽らざる本音ではあるのだけれど。