197「まるごと『レインボー7』/Part6」



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#9 『パープルウインド』


リズムこそが最重要である。
プロデューサー・つんく♂は、かつてよくそんな事を言っていた。


昔、まだレコーディングの様子がショーアップされてテレビでオンエアされていた時代の話。
初のレコーディングに臨むモーニング娘。の新メンバーたちは、
皆、プロデューサーの注文する高度なリズム表現に苦戦していたという歴史がある。
モーニング娘。の楽曲が、ダンスミュージック色を強めて行って久しい。
古くは『サマーナイトタウン』の頃からダンステイストの楽曲が発表されてはいたが、
特に『LOVEマシーン』以降から、その傾向はより顕著になり、
彼女たちは「楽曲のテンポに合わせ、メロディを正確に追える」という
シンガーとして極めて本質的な技術を、徹底的な反復演習で身体に叩き込まれるその一方で、
メロディをただ漫然と追っているだけでは絶対に生まれてこない、
ビートやグルーヴといった、言わば感覚的なスキルも同時に要求されるようになった。
確かに、それらは最終的には一つに繋がっていく要素という事なのだろうが、
本格的な歌のトレーニングもそこそこの新メンバーたちにしてみれば、
二つの全く異なった歌という物へのアプローチに、大いに戸惑ったに違いない。
だが、それらを、本当にわずかの時間で体得し、アイドルポップスとしては高度すぎる楽曲を、
ほぼパーフェクトな形で表現してきたのがモーニング娘。というグループであり、
数多いる他のアイドル歌手が、彼女たちの完成度に到底敵わない理由なのだ。


この『パープルウインド』を聴いていて強く感じたのは、
彼女たちの圧倒的な器用さ。そこに尽きるのである。
とにかく的確にビートを刻み、歯切れ良く唄うことが全て…というダンスミュージックのテイストは、
ここまでレビューを記してきた楽曲たちとは、明らかにその趣きを異にする。
もっと言えば、ここまでの新録曲の6曲全てが、一つの共通項で括る事のできない、
それぞれに独立した世界観を持っており、一曲一曲全く違う表現方法が必要とされる。
当然、稚拙で一本調子の表現力では、完成度の高い作品などはとても望めないし、
このアルバムが、ここまでの完成度を見ているという裏にあるものは、
彼女たちの、楽曲に対する高度な柔軟性。比類なき小器用さという事になるのだろう。


アルバムも終盤に入り、ここから先の楽曲からは、
いよいよモーニング娘。というグループが持つ「本当の良さ」が発揮されてくる。
ライブで例えるならば、キラーチューンの続く後半戦からラスト、そしてアンコールへと続く、
最もアツい時間帯。その起爆剤として、パワーを放つ一曲こそが、
この『パープルウインド』なのではないだろうか。