196「まるごと『レインボー7』/Part5」



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#8 『無色透明なままで』


その楽曲が、聴く者の心を打つ歌であるための要素は数々あろうが、
ボクがまず思うのは「ファルセットの妙」という事である。
日本語では裏声などと訳され、もともと持つオクターブよりも、さらに高音域を発声しようとする時に、
歌い手が「頼る」ような形で使うものだという認識が一般的だろうと思う。
だが、音域が行き止まってしまった時に出る裏声と、テクニックとして自在に操る裏声は、
同じ高い声ではあっても、根本的に全く異なる物だ。
歌い手がスキルとして感情豊かに発声するファルセットには、
従来の発声法のような喉の震えだけではなく、胸部全体を使った発声が求められる。
そして、そうやって紡ぎ出されたファルセットは、
いわゆる「裏声のようなもの」とは比べ物にならないほどに響きが豊かで、
間違いなく聴く者の琴線に触れ、大きな感動を呼び起こすのである。
この、ファルセットを巧みに使うという部分が、歌い手の巧拙を測る、
一つの大きな目安になるのではないかとボクは考える。
なぜなら、ファルセットを上手く聴かせるという技術。
それは、我々が想像するよりも、遥かに難易度の高いスキルだと感じるからである。
上手にファルセットを聴かせる事が容易ではない。という事を実感するには、
実際に自分で発声してみるのが一番だろう。
物は試しに、この曲を、CDの中のように、情感たっぷりに唄ってみて欲しい。
特にサビの部分において、上手くファルセットが使えずにもどかしい思いをするはずである。
そしてきっと、この楽曲を流れるような美しさで唄いあげる彼女たちに、
少なからず尊敬の念を抱く事だろう。唄える、そして聴かせるモーニング娘。
またしても見せつける一曲。それが、この『無色透明なままで』なのである。


藤本美貴高橋愛の「巧さ」については、もはや説明する必要性を持たないだろう。
キャリアを経るごとに、どんどんと器用に、そして、ダイナミックになっていく歌声は、
暴言を恐れずにあえて言うなら、モーニング娘。にしておくのは勿体ないほどのシロモノ。
だが、あえてモーニング娘。のメンバーとしての存在感を確実なものにして、
その立場のまま、対外試合をどんどん挑んでいって欲しい。そして、モーニング娘。とは、
こんなにも実力の宝庫なのだという事を、世に知らしめて欲しい…なんて、
そんな風にも思ったりするのだ。
でも、それよりも驚いたのは、吉澤ひとみのしっとりとした歌声である。
ややもすれば、男勝りで大雑把なイメージが付きまとう彼女。
フットサルで見せる格好良さや、コントで見せるアホ全開っぷりなどを見るにつけ、
そんなイメージがつくのも仕方がないと思えたりもするのだが、
この曲の彼女に触れれば、それがいかに短絡的で、
かつ浅はかな物の考えかという事を嫌というほど痛感させられる。
そこにあるのは、20歳の女性の持つごく普通の女性らしさ。
そして、そこから滲み出る匂い立つような色香。
別に無理をしてキャラを作っている風でもなく、自然な形でそれを表現できる彼女を見て、
モーニング娘。というグループで培った6年分の劇的な成長を
改めて感じずにはいられなかった。
もちろん、小川麻琴紺野あさ美の存在感も忘れてはならない。
小川は、本来歌に定評があったメンバー。だが、昨今のシングル楽曲では、
それが発揮されることはほとんどなかった。今回は、なんと言っても小川の歌声をたっぷり堪能できるし、
バカばっかりやっている訳ではなく、ちゃんとした実力の裏づけがあるのだという事を、
見事に立証する出来映えになったと思う。
紺野は、天賦の才ではなく、努力と根性とセンスでここまでのし上ってきたタイプ。
最初から才能の上限を持って生まれた者とは違い、彼女はゆっくりとではあるが、
確実に実力を自分のほうに手繰り寄せてくる。だから、実力のキャパシティは青天井。
水をあげればあげるほど、どんどんと育っていく草花のように、
その伸びしろはどこまでも永遠に続くはずである。


佳曲揃いの今回のアルバムの中でも、特に感動させられる一曲。
それは、豊富な歌唱力に裏打ちされた、歌い手の絶対的な自信の賜物であろう。