166「後藤真希 プレミアム・ベスト1」



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例えば一人の人間を、6年もの長きに渡って「定点観測」するというのは、
簡単なように思えて、これは意外と難しいのではないだろうか。
いや、見続ける事自体は案外と容易いかもしれないが、
その6年の間に起こった、可視不可視全てを含めた変化をリアルに感じ、
そしてそれに対して心の底から感嘆する行為は至難の技だと思うのだ。
なぜなら、例えその瞬間は鮮烈な記憶や思い出であったとしても、
形として残さず脳内行動で完結している限り、いつかはトコロテンのように脳裏から押し出されてしまうからだ。
また、仮に写真や音で記憶をスクラップできたとしても、
その当時の新鮮さや熱狂ぶりというものをも同時に密封保存できるかと言えば、
それはやはり難題であると言わざるを得ない。
さらに、記憶される側の存在が、過去現在、そして未来。いつの時であっても、
常に輝きを放ち続けているという事もまた、大いに重要であろうと思う。
スタートからの変化の過程を懐かしみつつ、「だから今があるのだ」と、過去を踏まえて現在の姿を愛でる。
そして、来るべき将来には、どのような形になっているのかを夢想する…
そうある為には、少なくとも現時点で輝きを失っていてはいけない。
ただ過去を懐かしむ行為ほど「後ろ向き」な事はないのである。


13歳の茶髪の少女がモーニング娘。に加入し、グループにまつわる
全ての事象を激変させた1999年。2000年にソロデビューを果たした後も、
彼女はあらゆるシチュエーションにおいて世間を席巻してきた。
そして2005年。およそ6年の齢を経て、20歳の麗しき女性となった彼女――後藤真希が、
現時点での集大成とも言えるベストアルバムをリリースした。
それはもちろん、後藤真希という一人のアイドル、そしてアーティストの定点観測の全記録であり、
同時に、彼女がソロデビュー以降歩み続けた5年間の足跡を、
余すところなく、かつ、熱かった当時の雰囲気もろともそのままパッケージした、
まさに「後藤真希フリーズドライ」な一枚となっている。


デビュー曲『愛のバカやろう』(TR-1)は、そのオリエンタルなメロディ、
そしてモーニング娘。での妹キャラとは明らかに違う雰囲気が、
後藤真希の時代を弥が上にも予感させた一曲。
モーニング娘。のメンバーとしての最後のステージ。
涙と爽やかな笑顔に包まれ、ラストにみんなで唄った『手を握って歩きたい』(TR-3)。
ソロとして初出場した紅白歌合戦のオープニングを飾った『オリビアを聴きながら』(TR-13)。
ボキの大好きな・KANが手がけた『スッピンと涙。』(TR-4)。
イントロが流れ出した瞬間、まるでレトルトパックの封を切ったかのように、
パーっとその当時の記憶が新鮮なまま全身を支配し、
まるで今現在、当時の時間の中に自分がいるかのような感覚さえ覚えさせてくれる。
そして、新録となった『二十歳のプレミア』(TR-15)には、
後藤真希というアーティストの「これから」が熱く込められていて、
アルバムを通して聴くうち、後藤真希という存在についての記憶の時系列が、
ゆっくりと一本に繋がっていき、改めて「ごっちん」の存在感を強さ、
そして稀有な実力について、感嘆せずにはいられなくなるのである。


聞けば、来年には女の蠱惑(こわく)を題材にしたドラマに主演するという。
ダンスと歌が上手く覚わらずに、楽屋の片隅でビービーと泣いていた少女が、
甘い色香漂う、妖艶な女性を演じるまでになるというのだから、
昔から彼女を知るものにとってこれほど感慨深いものはない。
そんな後藤真希の、6年間の「ヴァーチャル成長絵巻」。
手にしたものだけがそれをできる、これはまさにプレミアムなベストアルバムと言っていいだろう。