161「中澤裕子と京フィル 気ままな音楽会」



中澤裕子が京フィルと共演!(オフィシャルサイト)



中澤裕子が緊張している姿を、なんか久しぶりに見たような気がした。


司会者との受け答えはいつもと変わらない様子だし、ぱっと見た感じはそうでもなさそうなんだけど、
「ああこれは緊張しとるな」という空気をステージの上の彼女が醸し出していた事は、
彼女の事をつぶさに見てきたファンならば、誰しも気がついていたに違いない。
解らない人の為に彼女の緊張のバロメーターを強いて説明するならば、
その犬っ鼻がいつにもまして犬っ鼻になっている事、てなところだろうか。


冗談はさておき。
地元京都でのライブ。しかも、規模が小さいとは言え、
後ろに従えるはフィルハーモニーオーケストラ。
そして、その生の演奏をバックに、たった一人歌を唄うというシチュエーション。
しかも、勝手知ったるアリーナホールでもライブハウスでもなく、
そこは、クラシックやオペラを愛でる事を目的に作られた会場。
つまり、正真正銘のアーティストでなければとても通用するはずのない、
一切のごまかしが介在しない舞台だというのだから、
さしもの中澤裕子であっても、顔を強張らせて緊張しまくるというのは無理からぬ話。
やはりと言うか何と言うか、第1部のステージはどこかよそ行きの、
少し肩に力の入るようなそんな雰囲気で淡々と進んで行ったのである。
休憩を挟んだ第2部も、詩の朗読という大役を控えているせいなのか、
彼女はなかなか緊張感が拭えずにいるようだった。
しかし、そんな状況を一変させる出来事が起こる。
それは、モーニング娘。時代のヒット曲が続く第2部後半。
『抱いてHOLD ON ME』が披露され、テンションの少し上がった客席から、
いつもの「ヲタ声」が起こった瞬間の事だった。


それはまるで、きつく縛っていた麻紐を緩めた時のように、
フッと彼女の表情に柔和な微笑みが戻った。
そして、堰を切ったように客席から声が上がり始めると、
それまでのよそよそしさがまるで嘘のように、ステージと客席の距離が縮まっていき、
本編ラストの曲『DO MY BEST』のイントロが流れ出す頃には、
もはや、いつも見慣れた形の「裕ちゃん」と「ヲタ」の姿がそこにはあった。
とは言え、ハローの会場特有の猥雑な空気などは全く存在せず、
こんな演者とヲタの形もあるのだと、そのあまりに新鮮さに感動を覚えたほどである。
「いつもの場所がここにある」という安心感と、
そして、京都フィルハーモニー室内合奏団が奏でる美しい音色をバックに、
アンコールの『ふるさと』を、文字通りの場所で歌い上げた彼女は、
大きな拍手に包まれながら、そっと涙を落としたのだった。


「今日はいいステージだった」と、見ている方も、そして、やっている方も、
両方が思える理想の公演には、なかなか巡りあえるものではない。
まして、1回のツアーで何十公演も行う今の事情ではなおさらである。
今回のライブは、見ているボキたちも、そしてステージに立っている裕ちゃんにとっても、
非常に価値のある、すばらしい公演だったとボキは改めて実感している。