159「シングルV「直感2〜逃した魚は大きいぞ!〜」」



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『LOVEマシーン』のPVが、今で言うシングルVの第一弾として
発売された時は、本当にカルチャーショックを感じたものだった。
だいたいPVというものは、言ってみればタダで見るのが当たり前で、
例えば、テレビ雑誌でMTVのオンエアリストをチェックして録画のチャンスを狙ったり、
深夜のフィラーでたまたまPVを見かけて、翌日の夜リモコン片手に眠い目をこすってみたり、
なんかそういう趣きのものだったような気がするし、
企画の一環として、いわゆるPV集がリリースされると聞けば、その嬉しさは相当のものだった。
だから、シングル毎にPVがリリースされ、買いさえすればいつでもどこでも見られるという
シングルVのシステムは、あるいはどこかにはすでにあった手法なのかも知れないが、
ボキにとっては、全く初めての感覚であり、結構衝撃的だった。


当然、今までタダだったものを売り物にする訳だから、
出来上がりとしては、やはりそれなりのものでなければならず、
モーニング娘。のPVは、それまでの、流れに身を任せたような感じの
イメージビデオっぽい佇まいから、スタジオセットと編集技術を駆使し、
細部にわたってしっかりと作り込まれた、
まさに「映像作品」と言っても良いほどにクオリティの高い世界に一変した。
そしてそれが、より良い作品に巡り会いたいというファンとして当然の欲求とガッチリ噛み合い、
DVDの急速な普及という時代背景の追い風も受け、
ハロプロの仕掛けたシングルVという戦略は大成功を収めた。
多少大袈裟かも知れないが、これは音楽ビジネスにおける、ひとつの歴史の誕生と言えるだろう。


そんなハロプロの専売特許に異変が生じている。


モーニング娘。のニューシングル『直感2〜逃した魚は大きいぞ!〜』のPVが、
事のほか作り込まれず、なにかライブ映像で「お茶を濁す」かのような、
なんとも薄っぺらな仕上がりになっている。
いや、それを薄っぺらいと言うのは、いささか見識も甘いのかも知れないが、
少なくとも、『LOVEマシーン』以降のPVの作り込み感(出来はともかく)からすれば、
この変化は劇的とも言えるだろう。


もちろん、曲の良さを伝えるのにはライブの様子を見せるのが一番だ、
という作り手の見解は尊重したいし、撮りおろしの映像も一応は入っているのだから、
まあこちらとしては、その出来上がりを受け入れるしかないのではあるけれど、
どうも全てが中途半端というか、ライブこそ曲が生きるという考えならば、
例えばオフショットの画なども使ったりして、今までのPVにおける作り込みを
あえて全否定するような作り方に徹するべきだろうし、
今ひとつ、どういう意図でああいう構成になったのか、やっぱり解り兼ねてしまう部分はある。
もともとこの曲を巡っては、タイトルチューンが直前になって変更されたりだとか、
リリースの前からなにやら妙な雰囲気だったし、その辺りの事に関連して、
あるいは、単純に撮影や編集に費やす時間がなかった…というような、
どうしようもない理由も、悲しいけれど横たわっていたって、なんら不自然ではない。


リリースに関する喧騒もようやく一段落し、ファンもこの曲にどっしりと向き合う準備ができて
さあこれから、という時に、またしても気を削がれたような、なんとも微妙な状況。
内容自体は決して悪いものではないのだけれど、
この楽曲、どうも不幸な星の下に生まれているようである。