141「一寸の虫にも五期の魂〜小川麻琴の「反骨」」
ボキは、小川麻琴の姿に保田圭を重ね合わせる事がよくある。
メインに立てる力は十二分にあるのに、サブポジションに甘んじている姿。
イジられる事、グループ内の道化師担当に「生きる道」を見出だした姿。
生き写しとまでは言わないが、何かの拍子にふと、
小川が保田圭然とした姿で佇んでいるように見える瞬間があるのだ。
かつてボキがリスペクトし続けた、モーニング娘。のサブリーダーたる保田圭。
彼女が、「ケメちゃん」としてグループ内外から愛される存在になるまでの道のりを反芻してみる時、
彼女のような存在で居続ける為に必要だったのは、一に誰もが認める確固たる実力。
そして、チームプレーの為に自我を押し殺す事ができる強い忍耐力であった。
よくよく考えてみれば、その二つは、まさに今の小川麻琴を形作る要素そのものであり、
ボキの目に映る小川麻琴に、保田の姿が投影されるというのは、
あながち誤った妄想などではないという事なのかも知れない。
ただ、今の小川に、当時の保田圭のような懐の深さがあるという訳では残念ながらなく、
近い将来、保田のような温かい存在となりうる可能性は強く秘めてはいるだろうが、
今のところは、「なんか保田っぽい」という微妙な域を出るものではない。
しかし小川麻琴は、保田圭にはどうやっても敵わない、絶対的なアドバンテージを一つだけ持っている。
それは「華々しいスポットライト」の経験。
保田圭が加入当初から卒業のその日まで、ただひたすらにサブポジションを暖め続けてきたのに対し、
小川は今で言うところの「エース」の座を勝ち取るチャンスを目前にしていた時期が確実にあった。
かの夏まゆみが著書『変身革命』の中で、5期メンバーが入って間もなくの頃、
ダンスレッスン中に気の緩んでいた小川の天狗の鼻をへし折った…という逸話を語っている。
加入直後のシングル『Mr.Moonlight〜愛のビッグバンド〜』で、
センター・吉澤ひとみの相手役にいきなり抜擢され、
4thアルバムの名曲『初めてのロックコンサート』では堂々の主役。
オーディションのダンス課題でフォーメーションのセンターを務めた事と考え合わせても、
少なくとも、歌とダンスのその実力は折り紙付きという事であり、
このまま5期を引っ張っていくのは小川麻琴でまず間違いないと誰もが思っていた。
時間的には短くとも、どのスタッフよりも濃密にメンバーと接している夏まゆみが言うのだから、
おそらく、彼女の言うように、そんな当時の小川には少なからず「過信」があったのだろう。
もちろん彼女だけが努力を怠っていたという訳ではないのだろうが、
結局はその過信が、彼女の放っていた輝きを少なからず鈍らせる事になってしまった。
その後の埋没の日々は改めて記す必要を持たないだろう。
精神と肉体のバランスを崩してしまったり、不運な腰のケガがあったりと、
挫折の日々から這い上がる事だけが全てという、虚しい日々と戦いながら、
今彼女はようやく、保田圭的な身の置き方に活路を見出しつつある。
しかし、このまま「この程度」で終ってしまう小川麻琴などではない。
ここまでの道すがら、天国と地獄の両方を見てきた彼女は、
彼女の身に起こった全ての事をエネルギーとして「究極の反骨心」を身につけている。
今はまだその反骨心が彼女を突き動かすという事はないかも知れない。
しかし、そう遠くない未来、彼女が芸能人としての勝負をかける際には、
溜めに溜めた反骨心のパワーを必ずや武器として使ってくるはずだ。
そして、それを契機として、あの頃のようなラギラとした「突き刺すような」自信を
小川麻琴が取り戻した時。
狂っていた全ての歯車は再びガッチリと噛み合い、元来、彼女が持っている
歌とダンスの潜在能力が一気に華開くのは間違いない。
そう。そもそも彼女には、保田が担ってきたような地味なポジションは似合わないのだ。
常に輝きを放ちながら、集団の先頭を走る「フロントランナー」。
それこそが、小川麻琴が小川麻琴として輝ける場所なのだから。