136「「美勇伝の美」〜JJ bis 美勇伝連載」



JJ bis(光文社公式)



アイドルが売れるための「秘訣」というものはいくつか存在するが、
その中の一つに「同性同年代にモテろ」というのがある。
女性アイドルならばティーン層の女の子の、男性アイドルならば思春期野郎のハートを
ガッチリ掴み取る事がブレイクへの近道となるのだ。
もっと平たく言ってしまえば「同性に好かれる存在たれ」という事である。
元来、異性に対する擬似恋愛的なアプローチが販売戦略の基本となっているアイドルにとって、
それはいささか難しい条件だったりするのだが、
少し目先を変えてみるだけで、意外とすんなりブレイクへの道は開けてしまったりする。
「自分もあんな風になってみたい」「なれるかも知れない」と思わせてしまう魅力。
「憧憬」や「羨望」だったりするそんな感情を特に同性のファンに抱かせればしめたものだ。
但しこれには、憧れ足りうる対象であるための「何か秀でたもの」が絶対必要であるという条件がつく。


例えば、かつて売れないアイドルだった安室奈美恵
そんな彼女が一時代を築いた背景には、類い稀な歌とダンスの才能という
彼女の最も秀でた部分を、作り手は「アイドル色を薄める」という方法論で前面に押し出し、
それに世の中の同年代の女の子が「かっこよくて、かわいい」と食いついた。
奇しくも「コギャル」がブームとなっていた時代の後押しも受け、
彼女は老若男女問わない文句なしのスターになったのである。
しかし、ここではたと気づかされる。そう。彼女はブレイクを勝ち取る為に、
アイドルのセオリーとも言える異性受けに特化した(それに萌える女子もいるだろうが)展開を
自らの芸能活動から一切捨て去ってしまっているのだ。
そうしなければ絶対に同性受けしないという訳では決してないだろうが、
なにか秀でた部分を持ち、それを活かすべく専念させるという事は、
浅く広くなんでもこなさねばならない「芸能の総合職」であるアイドルの生きる道とは
真逆のベクトルを歩むという事であり、そこでアイドルというアイデンティティは大きく揺らぐ。
まあもちろん、そこまでしてアイドルに同性の支持がいるのかは別問題なのだが。


ところで、今、美勇伝が雑誌『JJ bis』で連載をしている(「美勇伝の美」)。
『JJ bis』の読者層は、本家『JJ』よりも少し下の、ちょうど美勇伝の3人くらいの、
ハイティーンから大人への過渡期に生きる女の子たちであり、
そういう意味では、いわゆる異性向けに活動する「ベタ」なアイドルである彼女たちであったとしても、
歳が近い分、読者である女の子たちの共感や支持を得られやすいかも知れないと思うのだが、
そこでふと興味が湧いたのは、雑誌を買った女の子たちが、
あの美勇伝のページをどんな風に見るのかという事である。


もちろん「美勇伝かわいい」「こんな感じになりたい」なんて
思ってくれるのが理想だが、まあまずそんな事はありえないだろうと思う。
しかし、美勇伝という名前をアピるいい場所である事には間違いない。
本来一芸を磨き、アイドルである事を捨てないと獲得できなかった、
女性アイドルというジャンルが弱点としている同年代の同性への訴求力。
それを、ノーリスクで手にできたという意味では、この連載は実に有意義な活動と言えるだろう。


でも、むくけき美勇伝ヲタに混じって、『JJ bis』から飛び出したようなギャルcが
ライブ会場を闊歩するようになったりしたら、やっぱり困っちゃうかなあ。


ま、それはそれでイイかな。うん。