122「『恋の花』〜安倍なつみ 8thシングル」



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今回取り上げる、安倍なつみニューシングル『恋の花』も、
Wの新曲同様、つんく♂の手を完全に離れた作品である。
しかし、Wの方とは違い、この曲は非常にセンスを感じさせる仕上がりになっている。
それは単に個人的嗜好なのかも知れないが、
つんく♂テイストが混じっていないという事のメリットが、上手く前面に出ている作品だと思う。
Wの場合、つんく♂の手を離れた曲と、
つんく♂育ち」の声の相性の良さがあまり感じられないような気がしたのだが、
この『恋の花』は、泥臭さの消えた楽曲と、安倍なつみの歌声がうまく絡み合い、
絶妙の化学反応を起こしている。
同じ完全外注作品でありながら、ここまで出来上がりに差が出来てしまうというのは、
裏を返せばハロプロメンバーの良さを上手く引き出す事がいかに難しいかという事であり、
どうあれこうあれ、ハロプロの楽曲をソツなく作ってきたつんく♂というプロデューサーは、
やっぱり凄いという事になるのだろうか。


なっちに恋の歌。


それはボキだけが持つ、偏見にも似た思い込みなのかも知れないが、
なんとなく「なっち」と「恋の歌」、二つのキーワードがしっくりマッチングしない。
もちろん、彼女とて24歳の女性であるからして、
恋の一つや二つ経験してきていて当たり前だし、恋愛風景を描いた曲をもらった時には、
そんな経験を糧に楽曲の世界を表現もした事だろう。でもなんというか、
なっちが数々の恋愛をくぐり抜けて、今ここに存在しているという事がリアルではないというか、
なっちとは、もっとこう無垢で素朴で、それでいて恋愛には興味津々で…みたいな、
本当勝手な話なのだが、そういうキャラクターなのだという虚像を作り上げてしまっていた。
同時に、彼女に似合う楽曲とは、『ふるさと』『22歳の私』さらに、
彼女がモーニング娘。の「核」であった時代の名盤『セカンドモーニング』に収められた
『NIGHT OF TOKYO CITY』などの楽曲群を例に挙げるまでもなく、
等身大の上京少女を描いた世界観をおいて他にないと思っていた。
松浦亜弥が学生時代の青春群像を誰よりも上手く表現するように、
安倍なつみという歌い手は、まるで自らの足跡を辿るかのような、
東京という巨大な街と必死に対峙し生きていく少女の日常や苦悩や喜びを表現させたら
他の追随を許さないほどの巧みさであるのは間違いないし、
それこそが、シンガー・安倍なつみの醍醐味だと言いきれる自信はあるつもりなので、
余計に「なっち=恋の歌」という方程式に違和感を抱いてしまったりするのだ。
しかし、今作『恋の花』に触れた以上、そんな勝手な思い込みは改めなければならないだろう。


今回のなっちの歌に感じたのは、フワリフワリと舞うがごとく器用に恋を楽しむ姿であり、
そこには、田舎少女の東京暮らしの影など微塵も感じられない。
おそらく、つんく♂プロデュースであれば、彼女に、泥臭さの全くないポップな恋愛感情を
スマートに表現させようという選択肢はなかったはずである。
単語のチョイスや音の使い方、そしてなにより、プロデューサーに
歌い手が安倍なつみであるという先入観がない事で、幅広いプロデュースを可能にし、
今回のような素晴らしい化学反応が完成した事は、今後のハロプロにおいて、
極めて明るい材料であると言えるだろう。


いろいろな経験をして、また進化した安倍なつみ
それを体感できるというだけでも、必聴の一枚である。