097「「スッピンと涙。」〜後藤真希13thシングル」



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人は誰しも、青春時代を彩った楽曲、
そして、それが収録された「名盤」を、必ず1枚は持っているものであろう。
深夜、ふと思い出したように整理棚の奥から思い出の一枚を抜きだし、そっと再生してみる。
1曲目のイントロが流れてきた瞬間、脳裏に蘇る青春の甘酸っぱい思い出。
「歌は世に連れ」とは本当によく言ったもので、
どの世代のどんな人間であれ、常に人生の傍らには歌がある。
そして、様々な経験や記憶と全く同じタイミングで歌もまた、
人の心に深く刻まれていくのである。


ボキにとっての青春の一枚。数ある候補の中でも常に上位に存在するのが、
KANが1990年にリリースした『野球選手が夢だった』である。


これまでアイドルという存在に身をやつしてきたボキだが、
アイドルから離れていた時期というものが、本当に稀少だが存在する。
そのうちの一つが、このアルバムがリリースされた時期であり、
当時高校生だったボキは、KANが独自の音楽性で紡ぐ、
せつなすぎる男の恋愛の世界観に大いに共感し、
そして、収録曲とまったく同じシチュエーションの「苦い」恋愛を、
アルバムを手にする直前に体験していたなんていう偶然もあったりして、
ほどなくしてまたアイドル世界に流転してからも、
このアルバムだけは大切に連綿と聴き続けてきた。


ウブな高校生だった当時は、KANというアーティストが
どこのプロダクションに所属しているかなんて当然知る由もなく、
時が経ち、彼がアップフロントのグループ内に居たことを知ったのは、
すでにモーニング娘。のヲタになってからの事であった。
10年もの長い時間をかけ、何の意識もなく本能的に愛した2組のアーティストが
結果同じプロダクションだったという「奇縁」に感慨を覚えたのと同時に、
谷村新司の『風信子』やサムエル今井千尋の『ずっと 好きでいいですか
などの例を挙げるまでもなく、アップフロント系ミュージシャンによる
ハロプロ楽曲のコンポージングのラインナップの中に、
当然いつかはKANが名を連ねる時が来るだろうと思っていたし、
今回『スッピンと涙。』でそれが現実のものとなった事は、
本当に個人的にではあるけど、とても嬉しい出来事になった。


歌詞といいアレンジといい、とてもこってりとしたハロプロ味なので、
あるいはKANという作曲家の本当の意味での魅力は伝わらないかも知れない。
というか、ボキ自身、まだこの曲にKANの面影を感じられてはいない。
しかし彼の楽曲は、身体の芯にじんわりと、そしてゆっくりと良さが染み込んでいく
「遅効性」の魅力を秘めているし、そこに、今では歌をしっかり伝えられるようになった
後藤真希の声がぴったりハマれば、あるいは天下を取れる一曲になるかも知れない。
だから、なにはともあれ、まずは1度だけでも耳を傾けて欲しい。
そうすればきっと思うはずである。


「ああいい歌だな」と。