068「逃げちゃダメだ。うん。逃げちゃダメ」


緊張した。
なんでテレビ見るだけの事でこんなに緊張するんだろうというくらい心臓をドキドキさせて、
ボキはテレビの前に、なぜか正座で座っていた。


コラムには冷静ぶって偉そうにいろいろ書いてはいるけど、
実を言うと騒動が起きてから、ついさっきまでは、
彼女たちの姿を見るのが怖くてしょうがなかった。
避けて通れぬ道とは言え、そして例え一瞬のことであるとは言え、
「その話題」に話が及び、彼女たちの顔から微笑みが消えて、
沈痛な面持ちで立ち尽くすような姿を正視する事が、
今でもそうだが、ボキにはどうしてもできないのである。
もうみんな解ってる事なんだし、メンバーの気持ちなら少なくともヲタたちはちゃんと理解してる。
だから別に無理に触れなくてもいいじゃんか…
そんな風にボキは思ってしまうのだ。
そして、八王子のコンサート以降、
釈明とも言うべき挨拶が各会場で行われている事を聞き及ぶに至って、
たぶん自分ならば直視できずに会場から出て行ってかも知れないな…
とさえ感じていたから、今日のMステも本当は見るのがイヤだった。
けれど、そんなんではいけないと、勇気を出してテレビを付けたのだ。


「頭の中にかかった、モヤのようなわだかまりをスッキリと晴れさせたのは、
                     いつも通り元気に唄い踊る彼女たちの姿だった」


八王子のコンサートを見た人がそんな事を語っていたが、
今日のMステを見て、本当にそんな感じがした。


そうなのだ。彼女たちだって騒動を納得して受け入れた訳では決してなく、
いろいろな思いをグッとこらえて、がんばっているのだ。
何があっても、彼女たちがいつも通りモーニング娘。でいてくれるからこそ僕たちは救われる。
そんな簡単な事さえも、このドサクサの中でボキはすっかり忘れてしまっていた。
恥ずかしい限りである。

そして、ボキは決心した。


武道館のコンサートに行く。


矢口の事も含め、いろいろな思いや事情があって、
本当は春のツアーは全休するつもりだった。
しかし、逃げてばかりいてはダメだと、彼女たちが身をもって教えてくれている以上、
その教えを無駄にはできまい。
まだ「謝罪」する彼女たちの姿を直視する事はできないかも知れない。
けれど、彼女たちの思いの丈全部を、逃げることなく体全部で受け止める事こそが、
モーニング娘。を本当に愛している者の「証」であると強く感じるし、
これからも気合いを入れてモーヲタを続けられるよう、彼女たちに闘魂を注入してもらうべく、
5月7日、ボキは武道館に行く。


そして、ステージの上の彼女たちと、涙も汗も全部共有したならば、
5月8日からのボキはきっと、名実ともに、完全無欠のモーヲタである。