058「人生賭けて、愛します」


あなたがいるから、矢口真里(LF公式ページ)
ディスコグラフィ・セカンドモーニング(Zetima Online)



矢口のラジオの最終回。
彼女の話し声のおかげで、自殺を考えるほど荒んだ心が救われた…
というリスナーからの投書が紹介され、喋り手冥利に尽きた矢口は思わず感涙に咽んだ。
この様子を聴いていて
「ケッ、アイドル風情の一言で人生変わるなんぞ馬鹿げてる」
なんて感じた、心の冷たい人も多かったやも知れない。
確かに、他のカリスマに比べればアイドルはどこか幼稚で、
それに心酔するファンまでもそのようなイメージで捉えられがちだが、
世間がそう思うほど彼女たちは決して幼稚な存在などではない。
むしろ、そこいら辺の苦労を知らない頭の悪そうなスポーツ選手や政治家よりは
「身に付いた苦労」を経験してきている分、生き方に説得力がある。
だから、何気なく彼女たちが振りまく言動には、その生き方に裏打ちされた
言い知れぬパワーが漂い、知らずのうちに人々を元気付ける力を持っている。
自殺を思いとどまった矢口のラジオのリスナーもきっと、矢口が放つ
「無意識のパワー」に癒されていたのだろう。それはすごく幸せな事だと思う。


かくいうボキも以前、「今の生活」と「夢を追うこと」の狭間で
死にそうなくらいに悩んでいた時期が一瞬あったのだが、
「ダメでもともと夢を追うべし」という決断をさせてくれたのは、
モーニング娘。の名曲『ダディドゥデドダディ』の歌声だった。
何度もリフレインされる「一回きりの青春」というフレーズを、ふと口ずさんでみたある日。
ヘッドフォンの向こう側から、苦労を乗り越えがんばってきた彼女たちが
「さあ、あなたもがんばりましょう」と悩むボキの背中をポンと押してくれたのである。
数日後、辞表を出した帰り道の車。
もう前の日から何十回と聴いたダディドゥをまた聴きながら
「これで良かったんだよな」とボキがなんとなく呟くと、
スピーカー越しに彼女たちが「Oh!Yeah!」とだけ答えてくれた。
今も夢は叶ってはいない。けど、ボキにとっては
あの時彼女たちが「一回きりの青春、Oh!Yeah!」と言ってくれた、
それだけで十分だった。


別にそんなボキの生き方を認めて欲しい訳ではない。
むしろ「そんな理由で仕事辞めたのかよ」と突っ込まれても仕方のない話だという自覚はある。
しかし、少なくとも彼女たちと「人生を共にした」経験のあるボキは、
他の誰よりもファンとしてずっと幸せに違いないと信じて疑わない。
それは矢口に命を救ってもらったリスナーもしかり。
自分の人生まで賭してモーニング娘。と向き合う事の、この上ない喜びを感じた事のない者は、
やっぱり不幸であると言わざるを得ないのである。