050「50回記念に好きな事をただ書いてみたという話。」
一昨年の夏。島根での本体コンサートに行く道すがらの車中の事である。
「彼女」は突如として、ボキの心の中に入り込んできた。
確かにそれは、単なる思いつきだったはずなのだ。
しかし、これはあるいは「彼女」が、
当時迷えるモーヲタだったボキに仕組んだ必然だったのではないだろうかと、
ある時期を境に強く感じるようになり、そう感じれば感じるほど、
「彼女」ナシでは生きられぬ躯になっていく自分がひどく怖かった。
「彼女」――――道重さゆみとは一体何なのか。それを考え出すと未だ眠れぬ夜が続く。
モーニング娘。という存在を愛していく中で、
その本物のプロ根性に徐々に魅了されていったのが保田圭という存在であり、
尊敬の念すら抱いていたその偉大なる「推しメン」を失くしたボキは、
それでも保田が最後のステージで言い残した
「これからもモーニング娘。を応援し続けてください」の言葉を胸に強く秘め、
モーニング娘。のファンを一生涯全うしようとしていた。
しかし、卒業までの緊張感溢れる日々、そして厳かな卒業の儀式を終えたボキは、
すっかり平穏となった空虚な時間の流れの中で、
保田のいないモーニング娘。とどう接していけば良いのか、ただひたすらに逡巡していた。
モーニング娘。というグループと保田圭がイコールで結ばれていたこそ、
あそこまで熱くなれた自分がいるのもまた事実であり、
保田を失くした今後、一体ボキの中でモーニング娘。はどのような位置になっていくのか…
そのような朧げな不安の念もあった。
そんな時、ふと周囲を見回すと、同じように保田を愛していた者が、
亀井絵里や田中れいなのウチワを手に楽しげにコンサートに興じている姿があった。
それじゃあ自分は残りの一人を…そんな単純な思いつきから、
ボキは車中高らかにこう宣言をしたのである。
「俺、今日からさゆヲタになるよ!」
当然思いつきであるからして、新メンバーというだけの認識しかない「彼女」に
特別な感情を持っていた訳では無論ない。
気持ちの全ては「さゆヲタ宣言」以降の後付けの心想いでしかないのだが、
「彼女」の事を知れば知るほどに、
かつて味わった事のない、どうしようもない程の愛おしさを感じてしまうのだ。
もっと「彼女」の姿を見たくなる。もっと「彼女」の話す事を聞きたくなる。
気がつけば、一時しのぎの単なる腰掛けのつもりだった道重さゆみという存在が、
今のヲタとしての自分に欠かせない「心の拠り所」になってしまっていた。
とにかく、今はただ全てが好きでたまらない。
それは、かつて保田に対して抱いていた思いとは全く毛色の異なる、
それでもその時となんら遜色のないリスペクトの精神。
一体、なぜそこまで「彼女」に魅了されてしまうのか。
それが謎のところもまた、「彼女」の持つ大きな魅力であると言えるだろう。
どこに本質があるか全く読めない「彼女」の魅力は、謎の熱病のようである。
もっとも、こんなに楽しい熱病ならば、死ぬまで罹っていたいものなのではあるけれど。