139「「サイボーグしばたさん〜秋風に吹かれて〜」」



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古くは、その内容はおろかタイトルすら知ってるヲタも
もう皆無になってしまったかも知れない『太陽娘。と海』。
松浦亜弥藤本美貴、そしてまだ一介のキッズだった菅谷梨沙子と、
デビューあるいはブレイク前のハロメンをフィーチャーし、
深夜番組の短篇ながらもキラリと光る作品ばかりだった『美少女日記』シリーズのミニドラマ。
そして、そういう括りにするにはあまりに大きすぎるプロジェクトではあったけど、
在り方作り方の方向性としては前述の2作品と同系列だった名作『ピンチランナー』など、
ハロプロと、実験的かつ意欲的な映像作品とのコラボレーションの歴史は長い。
いわゆる「アイドル物」の映像というのは、演じる人間のキャラクター上、
扱われるテーマが「恋愛」であったり「青春群像」であったりと、どうしても普遍的なものになりがちで、
しかも、なるたけ演じる人間のイメージを損なわない配慮がそこかしこになされてしまうので、
結果、「ベタ」極まりなく、刺激の非常に少ない仕上がりになってしまうのが常であった。
しかし、逆のベクトルもそこには存在して、大物俳優と大物監督がスタンバイする
「商業作品」などとは違い、芸能界でも比較的身軽な存在であるアイドルを起用することで、
絶対に失敗できないという製作者のプレッシャーが大きく軽減され、
作り手のこだわりや、実験的な演出を思う存分試す事ができるのが
「アイドル物」の持つ特性だ、というのもまた真なのである。


サイボーグしばた』シリーズとは、もはやアイドル物の映像作品という枠を飛び越え、
柴田あゆみという、可愛くて実にアイドルらしいアイドルを演者として使い、
ナンセンスをどこまで極められるかという、
つまり、監督・おおなりてつやの「孤高の挑戦」なのではないだろうか。


オーバーなメイクや動きといった五感に直接働きかけ、一瞬の大爆笑を誘うのがコントならば、
その要素に加え、見る者の理解力や想像力といったものを掻き立たせて、
じんわりと、後を引くような笑いを誘うのがナンセンスコメディ。
つまり、風貌やリアクションによる「笑いの保険」がないので、
客をどこまで楽しませるかは、作り手のセンスと演者の表現力に全て懸かっていく。
例えば「全ての力が10倍」という非現実のシチュエーションを演者がどうイメージし、
どう演じるのか。そして演出家は、その演者の表現力をどういう形でフィルムに焼き付けるのか。
どちらか片方がズバ抜けていたとしても、どちらかが欠けていればいい作品は生まれない。
一連の『サイしば』シリーズにおいて、おおなり監督は、
その独自のセンスにおいて、映像化してみたいものを惜しみなく作品に投入し、
そして、おおなりてつやという映像作家の類まれなセンスを
数年にわたって体感してきた柴田あゆみは、ドラマや映画で経験するのとはまた違う、
豊かな表現力と演技テクニックを確かに自分のものとした。
つまり、演出家と演者の歯車がガッチリと噛み合い、シリーズの究極の形へと進化したのが、
今回リリースされた『サイボーグしばたさん〜秋風に吹かれて〜』なのである。


この『サイしば』シリーズは、長きに渡る、ハロプロと新進気鋭の映像作品の
コラボレーションのいわば最終形であり、この作品がきっかけとなり、
ハロプロと映像作品との関係に、また新たな新風が巻き起こったりすれば、
それはとてもハッピーな事なのではないだろうか。